学術研究とソーシャルサービス


レジデント初期研修用資料: 症例報告のソーシャルブックマーク化


医療の分野において,症例報告をソーシャルブックマークで報告したらいいんじゃね? という提案。
これを読んでて,なんか似たようなことを考えたことあったなあ,と思い返す。


ちょうど昨年末の図書館総合展で,以下の土屋教授の講演を聴いてて書いた感想に確かそういうことを書いた。


電子的学術情報流通における仲介の役割: エージェント、コンソーシアム、データベース、そして図書館(PDF)


土屋先生の言うことには,学術情報流通の世界においては,出版社や書店(代理店),図書館といったものは,情報流通のコストが高かった時代ゆえに存在価値のあった仲介者であり,今後は不要になるだろう,とのこと。
学術情報の流通というのは,基本的には研究者が書いた論文を研究者が読むことで成立している。つまり情報の根本と先っぽが共通。で,その間に,

  • 学術雑誌に投稿された論文の精度を判定する査読者,査読や編集を管理する学会等
  • 学術雑誌を出版(電子ジャーナル化を含む)する出版社
  • 学術雑誌の販売を仲介する書店・代理店
  • 学術雑誌を購入して研究者に提供する図書館


といった仲介者が存在する。
これらは,出版物の発行にかかるコストが高かった時代においては,学会が担い切れなくなった雑誌発行のコストを出版社が担い,出版社と直接交渉するんじゃ両者とも面倒なので代理店等が間に入り,個人では学術雑誌を買えないほどに価格高騰したので図書館が主として学術雑誌の購読と提供を担当するようになった,という流れの中で学術情報の流通上不可欠な存在となった。
しかしながら,現在は学術情報の多くが低コストな電子ジャーナルで利用されており,また研究者もやる気になればサイトにPDFで論文をおけば公開できる時代である。このため,もはや大出版社が学術出版を担う必然は薄く,書店や代理店も別に通さないで直接交渉すれば済む話で,また図書館に行かなくても電子ジャーナルは見られる。
んじゃいらないんじゃね? というのが土屋先生のお話。


で,先生は学会については「査読機能は必要だから」として温存しようとしていたのだけれど,そのときの感想として自分は

「いや,査読システムだって研究者間でのソーシャルな評価システムとかで行えるんじゃないっすか?」

みたいなことを書いてた記憶がある。イメージとしてはまんま,学術論文に対してソーシャルブックマークをしていくような形式*1。査読者に個人名でなく学会名義でのブクマをさせる方向で,査読者のブクマが多ければこれは信用にたる論文だと判断できるようなシステム。
まあ無茶な話ではあるんですが,技術的には多分可能。問題があるとしたら研究者文化だろうなと。


ちなみに,この手の「出版者も代理店も図書館も学会も全部なくしたシンプルな学術情報流通」というのを突き詰めると,下に掲載したようなWINNYで論文をUP/DLするようなモデルに行き着いてしまうわけですが,ほんとにそれがいいのかというのは色々考えないといけないところであるのと,そもそも(技術的には可能でも)文化的には実現不可能だろうな,というので,まあ多分思考実験。


さてさて,学術情報流通の未来はどうなるのでしょうね,
などとお茶を濁して終わらせるつもりだったのですが,以下のようなサイトを見つけてしまったのでわからなくなりました。


学術コンテンツサービス研究開発センター


センターについて

本センターはNIIが推進する最先端学術基盤(サイバー・サイエンス・インフラストラクチャーCSI)の実現の一翼として,次世代学術情報の提供サービスおよび流通基盤に関わる研究開発を行うことを目的に設置されました.どのような学術情報サービスが研究教育コミュニティにとって必要なのかを検討して,新しいサービス形態,新しいコンテンツ分野の開拓などを行っていく予定です.


プロジェクト

参加型学術情報サービス・プロジェクト
Web2.0 に象徴されているように利用者参加型のコンテンツサービスは集中型情報収集提供サービスとは異なった情報収集提供が可能であり,相互に補完的立場にあります.本プロジェクトでは論文情報提供サービスにおける利用者参加型サービスを実装,試験提供を行う予定です.


NII*2Google Labsみたいのを立ち上げやがりましたっ!?
しかもプロジェクトの一つに利用者参加型の論文情報提供サービス!? ちょっとwktk

*1:mixiのようなSNSの研究者版も考えたけれど,どっちかというとSBMの方が有効そう

*2:CiNiiをはじめとするさまざまな学術情報提供のサービスをやってる組織。CiNiiの一般利用化,医中誌との連携強化などの最近の動向がけっこう嬉しい。