ChatGPTを使用してガリア戦争に従軍したローマ兵の剣の刃渡りを知る方法、またはレファレンスツールとしてのChatGPT。

この記事が話題になっていた。

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たとえば、今、僕はガリア戦争(紀元前58~50年)を舞台にしたSF娯楽小説の戦闘シーンを書いているのだけど、ローマ兵の剣の刃渡りの長さがわからないと戦闘シーンの駆け引きの描写がリアルにならないし、挿絵も描けない(プロの方にカラー挿絵を描いてもらうことになっている)。

そこで、以下のようにChatGPT(GPT4)に聞いてみた。

ガリア戦争に従軍したローマ兵の剣の刃渡りはどれくらいの長さでしたか?

ChatGPTを使用したらこのことをどのように調べられるか考えてみる。
(ちなみに筆者は課金してないのでGPT4でなく無料のほうです)


研究者や、図書館でレファレンスで従事する職員の場合(筆者は過去に大学図書館でレファレンス業務を担当していたことがある)、調査の前に、どういった資料があればこれに回答できるかを考えるだろう。
物自体が一切存在しない事柄であれば近い時代の文献資料や経験してる人物の証言、専門家の論文・研究書などを探すのが適切だが、この問いの場合、おそらく剣は金属だろうから、当時の剣が実際に残っている可能性は高いと考えられる。
歴史的に重要な資料であるから、おそらくは博物館や大学などが所蔵しているだろう。
博物館ならアプローチがしやすい(後述)。そこでガリア戦争に従軍したローマ兵の剣」を収蔵している博物館を探す方針を立てる。

実際に剣が使われた場所、つまり戦地であれば、戦死者の装備や投棄された武器などが残っていた可能性が高い。
これについても文献等で調査してもよい(また知ってる人ならここはパスできる)が、まずここからChatGPTを使用していこう。



アレシアが著名な戦地であるらしい。
つづいて本題の、ここで発掘された武器を収蔵している博物館等を聞いてみよう。

戦地のそばにMuséoParc Alésia(アレシア博物公園)という博物館があるらしい。
まさにガリア戦争を主題とした専門的な博物館と思われ、戦闘で使用された武器も展示されているとのこと。
ChatGPTは固有名詞についても偽造する場合があるようなので、念のため実在する博物館か確認する。

www.alesia.com

ちゃんと存在するらしい。ここでコレクションのページに武器の写真があれば確実だが、ウェブサイトには一部の収蔵品しか掲載されていないようだ。
Googleで"MuséoParc Alésia sword"とか"MuséoParc Alésia épée"とかで画像検索してみると(épéeは剣を意味するフランス語。これもChatGPTに聞いた)、ガリア戦争で使用された剣の展示や、戦闘を再現した展示などもあるらしい。実際に職員が装備(たぶんレプリカだろう)をつけて当時の兵士を再現するデモンストレーションなども行っているらしい。ちなみにYouTubeチャンネルもあり、動画でガリア戦争について学芸員らが詳しく紹介している。ガリア戦争を舞台にしたSF娯楽小説を書くのであればこれ以上ない資料がたくさんある。
ここの発信している情報ならある程度信頼できると納得できるし、情報自体も潤沢のようだ。

www.youtube.com


www.youtube.com


ここまでで十分なのかもしれないが、細かくローマ軍の兵士の剣の刃渡りが何cmなのかの情報はぱっと見ることはできない。これを確認する方法はあるだろうか。


一般に、専門的な図書館や博物館は、所蔵資料に関する一般からの質問に答えるサービスがある(これもレファレンス業務の一種であり、筆者は専門図書館でこの業務をしてた時期もある)。
MuséoParc Alésiaの学芸員であれば間違いなくガリア戦争でローマ兵が使用した剣を実際に見ているだろうし、その刃渡りを計測した経験もあるだろう。
つまり、MuséoParc Alésiaの学芸員に質問すれば確実な回答が得られる
もちろん専門の研究者に質問しても同様だが、間違いなく剣の現物が手元にある人物の方が回答を信頼できるし、学芸員は市民にこうした情報を提供することが職分のひとつである。


英語で質問しても大丈夫かもしれない(日本語が分かる職員がいる可能性もある)が、フランスにある博物館であるからフランス語で質問するのが確実だろう。
残念ながら筆者はフランス語を分からない。フランス語のメールもあまり書いたことはない(大昔にフランスの図書館に問い合わせをした経験はあるがさすがに忘れた)。のでChatGPTに文例を考えてもらおう。
内容はふろむだ氏の立場になって書いてもらった。


Subject: Demande de renseignements sur les épées romaines ayant servi lors de la guerre des Gaules

Cher/Chère responsable du MuséoParc Alésia,

Je suis actuellement en train d'écrire un roman se déroulant pendant la guerre des Gaules, et je suis très intéressé(e) par les armes utilisées par les soldats romains à cette époque. Malheureusement, je ne parle pas français, c'est pourquoi je suis en train d'utiliser l'aide d'une intelligence artificielle pour rédiger ce courriel.

Je voudrais savoir si vous pourriez me renseigner sur la longueur des lames des épées utilisées par les soldats romains ayant participé à la guerre des Gaules. En particulier, j'aimerais connaître la longueur de la lame de l'épée que les archéologues ont découvert lors des fouilles du site d'Alésia.

Je comprends que je ne peux pas visiter le MuséoParc Alésia en ce moment, mais j'espère pouvoir y aller un jour. En attendant, si vous pouviez me fournir cette information, cela serait très utile pour mon roman.

Je vous remercie d'avance pour votre aide précieuse et je vous souhaite une excellente journée.

Cordialement,

[Votre nom]

([Votre nom]が分からなかったのでChatGPTに聞いたら自分の名前を入れろってことらしい。)


この文案が適切かはわからないので可能ならフランス語が分かる人にチェックしてもらった方が良いと思う。Google翻訳にかけると「刃渡りは何cmであるか」の箇所が曖昧だったりもしたので、もう少しChatGPTと一緒に文案を練っても良いかもしれない。古代ローマグラディウスについてフランス語で聞く場合にépéesって適切なんだろうか、みたいなニュアンスも気になったり。


たとえばこの内容でMuséoParc Alésiaにメールなどで問い合わせれば「ガリア戦争に従軍したローマ兵の剣」がすぐそばにある専門的な知識をもった学芸員が「刃渡りは何cmであるか」を丁寧に教えてくれることが期待できる(自分はさすがにメールはしないが)。MuséoParc Alésiaのサイトにはウェブフォームやメールアドレスが確認できるし、TwitterFacebookなどのSNSも使っているようだ。
またもし簡単にフランスに行けるようなら、実際にMuséoParc Alésiaに行って現物を見たり詳細なレプリカに触れながらガリア戦争時の戦闘に詳しくなることができるだろう。


たぶんこういうのがChatGPTを使って自分の知らないことを調べる方法ではないだろうか。


ポイントとしては二点。

  1. ChatGPTを使用する前に「自分はどういった条件下でのどういった回答が得られれば知識を得られたと言えるか」を検討すること。
    • たとえばこの場合、実際の「ガリア戦争に従軍したローマ兵の剣」があればこれに回答できるし、それを参照している専門家の回答なら納得できることが想定される。ので、剣が存在するか、存在するならどこにあるか、どこにあるケースならそこの専門家の回答を得やすいかなどを想像して、今回は「「ガリア戦争に従軍したローマ兵の剣」を収蔵している博物館を探す」という目標を立てた。ちゃんとゴールを立てないで探索を始めると手当たり次第に調べて事実を多数決で決めようとするなど迷走してしまうので危険である。
  2. 最終的な回答とその回答を得るための情報(今回で言えば博物館の存在や連絡先)についてはChatGPTでなく信頼できる手段で確認すること。
    • ChatGPTは嘘をつくし、かつてはネット上の情報全般もそのようなものと見られていた(というか、どんな文献もどんな人物も嘘はつく)。重要なポイントについてはより伝統的で慣れ親しんだ手段で確認するのが適切である。最終的な回答はもちろん文献等でも良いが、今回は比較的アクセスが容易そうなので博物館に直接問い合わせるのがベターと思われる(ChatGPTが文案考えてくれそうなので使ってみたいもあった)。


そうした点をふまえれば、自分のようなガリア戦争について詳しくないしフランス語も分からない無知が、MuséoParc Alésiaを教わりそこに問い合わせる準備くらいはしてもらえるのでChatGPTは有用と思われる。図書館ではレファレンス業務に使用する索引や辞書などをレファレンスツールというが、索引のように回答を得るための資料を探す性格のレファレンスツールと思えばChatGPTもレファレンスに使えるかもしれない。