自費出版の出版点数

それにしても自費出版の書籍点数が、トップだということは、あまりにも異常で、これは出版界にとっても大問題ではないだろうか。

本が書店に並ばないからといって、自費出版の出版社を訴えるのは筋違いだ!: 伊藤文学のひとりごと


なんていう発言が目についた。
でも異常っつーか,自費出版と商業出版の刊行形態の違いを考えれば,小部数多点数発行の自費出版と普通の商業出版物を比べちゃいかんだろう。異常というか,当然あるべき姿なんじゃないか。


と思ってたんですが。

新刊点数を出版社別でみると、新風舎が2788点(取次会社ルートで販売されたものは385点)でトップ、2位が講談社の2013点、3位は文芸社の1468点(同327点)、4位学研1106点、5位小学館937点、6位集英社849点と続く。

 新風舎文芸社以外は、いずれも取次会社ルートで販売された点数。従来はこの販売点数を数えていたが、申告があれば取次会社ルートにのらないものも合算する方式を昨年途中から採用した。この方式によると、05年分から新風舎が出版点数で1位となっている。

http://book.asahi.com/news/TKY200707100377.html


刊行点数が2788で取次ルートが385……? 14%?

ここで1点、昨年出版ニュース10月上旬号に掲載したように
自費出版系の新風舎より点数の修正があり全体の点数にも修正がかかります。
2005全体 78,304 80,580
新風舎 1,673 2,719
文芸社 345 1,575
前者が収録点数、後者が修正後の点数
同様に
2006全体 77,074 80,618
新風舎 385 2,788
文芸社 324 1,468

定価なしの商品であったりあまりに小部数であると流通分としてはおそらくデータ登録がなされてないのでこのような違いが出ているのであろうと思われます。
数ヵ月後に国会図書館などにはNDCがついて納本されてはいるようですが。

なお年鑑の分類別統計、平均定価などは流通分としての点数77,074を基準に算出されています。

http://www.snews.net/blog/archives/2007/04/2007_1.html


新風舎の2005年は1,673/2,719,2006年は385/2,788。
取次通してる割合が減ってる? いやさすがにそれは誤解か?*1
まあなんか気持ち悪くなったので,ちょっと大手自費出版出版社の出版点数の推移を調査してみました。

自費出版大手三社の出版点数推移

刊行年 新風舎*2 文芸社 碧天舎 三社計 図書総出版点数*3
1988 3 3 38,297
1989 10 10 39,698
1990 8 8 40,576
1991 23 23 42,345
1992 15 15 45,595
1993 40 40 48,053
1994 172 172 53,890
1995 257 257 58,310
1996 411 1 412 60,462
1997 354 52 406 62,336
1998 368 172 540 63,023
1999 370 463 833 62,621
2000 279 1266 1545 65,065
2001 304 1762 2066 71,073
2002 574 1799 73 2446 74,259
2003 1066 1760 280 3106 75,530
2004 1870 1512 401 3783 77,031
2005 2677(2719) 1576(1575) 346 4599(4640) 78,304(80,580)
2006 2743(2788) 1464(1468) 116 4323(4372) 77,074(80,618)


データは国立国会図書館NDL-OPAC新風舎文芸社,および昨年潰れた元業界三位の碧天舎の図書の登録点数を出版年毎に検索したものから取得。上記の記事にもありますが,自費出版の多くは流通に乗らないので出版系の統計はあまり役に立ちません。むしろ納本を当たった方が適当と予測。*4
またこの手の自費出版ビジネスをやっている出版社はこの他にもありますが,ほかは一番多い年で100点を超えるか超えないか程度なので省略。数は多いので全部足せばそれなりの数いくと思いますが,めんどいので。あとこのへんの出版社の経歴や事情はそれほどよく知ってるわけじゃないので,自費出版以外の刊行がどの程度含まれるかは考慮してません。単純にその出版社が刊行した図書の点数ってこと。


データの信頼性の点からでは,実際の出版点数と国会図書館の納本点数が一致しないという問題があると思います*5が,自費出版の場合に「国会図書館で保管してもらえる」というのは一つの有力なサービスだと思うので,むしろ商業出版などより納本率は高いと考えられます。
また新風舎のサイトでは2002年以降に刊行したタイトルが検索できるので,参考までにこれのデータと比較しますと,

刊行年 NDL-OPAC 新風舎サイト 申告出版点数
2002 574 589
2003 1066 1052
2004 1870 1866
2005 2677 2710 2719
2006 2743 2797 2788


完全には一致しないもののわりといい線いってるんではないかと。しいていえば2005年と2006年は納本割合*6が減ってるかな。
あと文芸社の方は申告出版点数とほとんど違いがないですね。少なくともこの2年は100%納本してるんでしょう。それ以前は不明ですが,傾向として納本率は高いと推定できます。2005年でNDL-OPACの方が多かったりするのは誤差なので気にしなくていいでしょう。



で,数字をざっとみますと,90年代に新風舎文芸社ともに100点単位で伸びてきて,2000年に入ったところで文芸社が一気に伸び,それに対抗するかのように2002年から新風舎が異常な伸びを見せ,その伸びに釣られるかのように参入した碧天舎が2003年あたりから現われたけれど2006年はじめに倒産,文芸社新風舎にシェアを奪われたのかやや衰えてると,そういう流れみたいですね。2003-2004年間で二社が見事に交錯してます。その後の新風舎のさらに異常な伸びを考えると,偽装とかじゃなく素直にシェアを伸ばしたのでしょう。
全体の出版点数は90年代前半にぐっと伸び,後半でやや停滞するものの,また2000年代に伸び,現在また少し停滞してる,ぐらいの感覚ですね。90年代前半の新風舎の伸び,2000年代前半の新風舎文芸社の伸びはこれとやや重なります。


自費出版の刊行点数全体でみると,この三社だと2005年が一番のピークで,2006年はむしろ落ちてるようですね(碧天舎の倒産もありましたが,二社のみでも落ちてます)。まあそれ以前の伸びからみるとこれは誤差みたいなもんなので,これくらいの点数で安定,って路線かもしれません。


しかし,2000年代に入ってからの伸びは本気で異常ですね。特に新風舎。単に自費出版熱が盛り上がった,とかじゃ説明がつかない感じ。やっぱ気持ち悪いなー。
まあでも,講談社とかと比較するんなら点数でするのはやっぱり適当ではないでしょうね。総部数でいったらどれくらいになるんでしょう新風舎講談社の一割もいかないと思うんだけど。


なお,参考までにコミケの同人誌の冊数の試算*7と並べるとこんな感じになります。

刊行年 図書総出版点数 自費出版三社計 コミケの同人誌
1988 38,297 3 18100
1989 39,698 10 21000
1990 40,576 8 26000
1991 42,345 23 25000
1992 45,595 15 27000
1993 48,053 40 31000
1994 53,890 172 32000
1995 58,310 257 38000
1996 60,462 412 40000
1997 62,336 406 55000
1998 63,023 540 56000
1999 62,621 833 60000
2000 65,065 1545 58000
2001 71,073 2066 58000
2002 74,259 2446 70000
2003 75,530 3106 58000
2004 77,031 3783 58000
2005 78,304 4599 58000
2006 77,074 4323 70000


自費出版どころか,一般に流通してる図書全体といい勝負な件。*8

*1:文芸社と比較すると,むしろ2005年次のデータがおかしいような気がする

*2:2005,2006のカッコ内は上記の修正を加味した申告出版点数。文芸社,三社計も同じ

*3:元データは出版年鑑。でも書棚ドットコム:解説等からの孫引用。また2005,2006のカッコ内は自費出版修正後の点数

*4:まあ多分本当は自費出版年鑑あたりを見るのが一番スマートなんでしょうが,手元にないので仕方ない。

*5:すべての出版物が必ず納本されてるわけではない

*6:また国会さんの整理割合? 最近のは納本されてても未整理,ってのはありそう

*7:年別のコミケ各回各日の参加サークル数の合計。一サークルにつき一新刊発行として計算。なお実際はこれよりも何割か多いぐらいの点数になると考えられる。

*8:まあ同人誌も広義の自費出版ではあるんですけどね。