続・COMIC1 見本誌の明治大学図書館寄贈について


前回,同人誌即売会COMIC1」が明治大学に即売会で回収した見本誌を寄贈するという件について取り上げた。この件についてその後いくつかの動きがあり,遅くなったが簡単にまとめてみる。

前回のまとめと新しい展開


前回の記事では,COMIC1が明治大学に同人誌を寄贈する話を取り上げ,その関連事項の確認と,諸問題の検討を行った。


COMIC1 見本誌の明治大学図書館寄贈について - Myrmecoleon in Paradoxical Library. はてな新館


簡単にまとめると,

  • 新興のオールジャンル同人誌即売会COMIC1で,回収した見本誌(同人誌)を明治大学に寄贈するらしい。
  • 寄贈先は不明だが,明治大の和泉キャンパスで新図書館の計画が進んでおり,これが有力と思われる。また同キャンパスの国際日本学部では漫画等を研究対象としており需要がある。
  • 規模としては第一回のサークル数がおよそ1550,第二回がおよそ2500。現時点では図書館が受入れて問題のある規模ではない。
  • 問題として考えられるのは,性表現規制の法律の今後の動向,原著作者の権利の侵害,サークル・大学関係者それぞれの反発。
  • 特に当座の問題として,サークルとの信頼関係があげられる。


といった感じ。


これに加えて,以下の新たな展開があった。

寄贈の有無の選択の提示

見本誌寄贈の件ですが、幾つかのサークルより問い合わせがあり
「大学への寄贈はしたくない」
「寄贈するなら見本誌は提出しない」
とメールで意見を頂きました。
本来ならばすべての見本誌を寄贈したいのですが、サークルでも意見もあります
ので、寄贈したく無いサークルは見本誌回収袋の裏面に必ず
「×」印を大きめに書いて見本誌を提出して下さい。
寄贈しても良いサークルは何も書かずに、提出して下さい。
当日、同じ内容のペーパーを見本誌回収袋に付けて起きますので
参照願います。
また、「×」印を付けた見本誌に関しては一生、COMIC1準備会または
代表市川孝一が保管します。

http://comic1.sblo.jp/article/14418270.html


4月25日の公式ブログにおいて上記のとおり,寄贈の有無をサークルが選択できることが示された。
手続きとしてこの方式が適当かはともかく(「×」印をつける方式では,この件について理解してない同人作家は何もしないで提出する可能性が高い),選択の余地が出来たことは反対する側にも前進だろう。
サークルの反発の軽減は第一に重要な問題であったが,短期間でこうした判断を示したことについては評価されるべきと思われる(現にこの告知の時点で態度を改めたブログも見られる)。


なお,この内容は実際にCOMIC1☆2の開催時にサークルに文書で配られている。これにより,ネット上で知った者以外にもこの決定は伝えられている。
ただし若干文面が異なり,また,寄贈先が明治大学であることは明示されていない。この点は若干不備であるかもしれない。


参考:http://ameblo.jp/yeshouse/entry-10091693348.html


(以下,ペーパーを画像からテキストに起こしたもの)

見本誌について


このたびCOMIC1での見本誌につきましては、提出された見本誌を大学に寄贈します。
提出して頂いた見本誌は一年間COMIC1準備会で保管し、その後の寄贈となります。
寄贈を希望しないサークルの方は、見本誌回収袋裏面に大きく「×」印を書いて下さい。
「×」印の書いてある提出物は、寄贈せずに一生準備会及び代表が保管いたします。


COMIC1準備会
代表 市川孝一

寄贈の趣旨の説明


上記のブログ記事と前後するが,同じく4月25日の公式ブログにて,代表名義で今回の寄贈の趣旨についての説明があった。

見本誌寄贈の件ですが、唐突に発表し混乱させた事を
お詫び致します。
ですが、寄贈する事につきましては変わりなく行いたいと
思います、サークルの皆様のご理解とご協力をお願いします。


同人誌を理解してくれる企業・団体はかなり少ないのが現状です
世間から見たら、同人誌に関わる人は、少数派でしかありません。


同人誌は誰が守ってくれるのでしょうか?
サークルや一般参加者の誰かでしょうか?
イベント主催者でしょうか?


児童ポルノ法に「単純目的所持」と「絵」が入ったら
その時には、同人誌で表現したくても出来ない事になり
大量数の同人誌を、廃棄しなくてはならなくなる事が
予想されます


今から出来る事で、同人誌が守れるのであれば、努力していきたいです。

http://comic1.sblo.jp/article/14411997.html

(元記事から抜き書き)


明示的に書いてあるわけではないが,今回の同人誌の寄贈は同人誌の今後のため,特に児童ポルノ法改悪の問題をにらんでのものらしい。

本来ならば、COMIC1準備会で永久保存したいところ
なのですが、準備会の事務所にもたくさんのスペースは無く
どうしたものかと考えました。

http://comic1.sblo.jp/article/14194069.html


と前回は書いていたが,その訂正ということになるか。
前回のブクマにid:rajendraよりあった以下のコメントが良いところを突いてると思う。

オフトピだが、同人誌が大学図書館に収蔵されることで学問上の研究対象たる位置付けがいっそう明確になり、「同人文化の地位向上」的な文脈で読む流れも出てくるかな、などと思った。

はてなブックマーク - rajendraのブックマーク / 2008年4月22日

COMIC1☆2 無事開催


加えて,懸念されていたCOMIC1☆2(COMIC1の第二回)も無事開催・終了した。


http://comic1.sblo.jp/article/14482828.html


いくつかのレポートを見たが,少なくともこの件については開催中に深刻な事件とはなっていないらしい。*1
何もないのが当然ではあるが,無事で何より。

mixi上での活動からの非公式情報


これ以外に,非公式なものであるが mixiの「同人作家友の会」コミュのトピック上で活発な議論が行われており,いくつか有益な情報が出ている。mixiでの話なので簡単な紹介に留めるが,重要と思われるのでこちらについても触れておく。


明治大学図書館は(現時点では)COMIC1と協議等はおこなっていないらしい。


情報源は明治大学の図書館事務室図書館管理グループ*2への電凸より。明治大の司書さんがたはCOMIC1のことは知らなかったらしい。
ここから図書館以外への寄贈ではないか(参考:@++の記事)という考えも出てこないことはないが,むしろ見本誌寄贈の話がその段階まで進んでいない(図書館以外を通して進んでる途中の話だとか,そもそも寄贈の交渉自体が未着手だとか)という可能性の方がありそうに思えるところ。まあのちのち発表されるでしょうから勘繰っても仕方のないところ。
あと,どちらかというとこれに付随して紹介されてた話の方が気になったり。まあ未定の話だろうから書きませんけども,コミケもいろいろやってるんですね,と。


納得できるだけの理由があるが,詳細は現時点では公表できないらしい。


同トピ内で2名ほど,COMIC1☆2開催中に市川代表にこの件について質問しにいった方がいて,ある程度の回答を得られたらしい。内容についてはオフレコでmixiでもあまり詳しくは書いてないが,その話自体は納得できるものだった様子。


現時点では公表できないものの,今回の寄贈については納得しうるだけの理由があり,彼らのような当事者が真摯な態度で聞きに来たのであれば代表にも答える用意はあるらしい。ただ,一般に公表するのは今のところ難しい,というところか。
まあ相手のあることですし,大学関係なんかも色々ごちゃごちゃとしたものですから理解はできますね。


なお,これにあわせて紹介されたエピソードで,ある大手サークルが「どぞどぞ。うちのえろほん図書館に入れてください」と見本誌を提出した話が紹介されてたのが興味深かった。どう解釈するかはそれぞれだけど,自分は作家さんの市川代表に対する信頼を感じましたね。

まとめ


で,前回の分,および上記のことから分かることをまとめると以下のような感じ。

  • COMIC1運営は見本誌として収集した同人誌を明治大学に寄贈する意思がある。
    • 寄贈の理由は,同人誌と即売会を守るため,と説明されている。
    • それ以上の詳細な話はオフレコ。ただし直接聞きにいったサークルさん方にはある程度答えている。
  • 明治大学側からの情報はなし。どこに寄贈されるかも不明。
    • 和泉キャンパスの新図書館が有力候補だが違う可能性もある。いずれにしろそれほど話は進んでいない?
    • 国際日本学部では漫画等の文化を研究している研究者が在籍しており,関連が推測される。
  • 第二回(COMIC1☆2)では,同人誌を寄贈させるかどうかはサークルで選べることになった。
    • 第二回の参加サークル数は約2500。どれだけの冊数が見本誌として提出されたか,どれだけが寄贈を拒否したかは不明。
    • 寄贈を認めた同人誌は一年間運営側で保管されたのち寄贈される(ペーパーより)。
    • 寄贈を認めない(「×」をつけた)同人誌は寄贈されずに保管される。
    • 第一回で提出された見本誌(約1550サークル分)の扱いは不明。寄贈の対象となりうる,と考えた方が妥当か。
    • 第三回以降は未定。あるとすれば今回と同様か。
  • 寄贈後の管理・運用は不明。
    • おそらく今後の交渉次第になるのではないか。同人作家側としては,むしろどのようにであれば良いのか,意見を出すのが妥当だろう。


今後はこのへんをふまえて見ていくとよいだろう。


で,あと色々書こうかなと思ったのだけど,量が量なので自重。また個別に記事にする予定。予定は未定。
最後に,同人作家の方々と図書館関係の方とで関連の記事がかなり上がってるのでざっと紹介。


(同人作家)

ほか


(図書館関係)*7


まあ今回はこんなところで。

*1:トラブルは大きな即売会には付き物ではあるので,それ以外には何かあったかもしれないが。

*2:旧図書館事務部図書館庶務課および整理課。おそらく図書館の総務と資料の受入れ,目録等を行う部署。寄贈資料を扱う現場。

*3:同人誌即売会情報を随時更新しておられる方。実は自分もここ経由で見本誌寄贈の話を知りました。各種まとめがわかりやすい。

*4:COMIC1☆2にサークルとして参加された方。当事者であり,本件について積極的に活動されています。

*5:COMIC1☆2には参加していないサークルの方。各記事のタイトルは,本件の諸問題を適切に突いていると感じます。

*6:COMIC1☆2にサークルとして参加された方。当事者であり,初期にいくつかの批判記事を書いてられましたが,25日の公式ブログでの発表をうけて,「責務を全うした」として削除されています。もともと批評系の方なので自著の寄贈にはあまり抵抗がない様子。ちなみにコミティアにも来られていたので,何冊か同人誌を買わせていただきました。

*7:こちらは最近関連記事が出てきたところだが,元図書館職員でかつ同人活動もしている永字八法さんを中心に,同人誌のアーカイブと創作者のコントロールの問題が主題となっている記事が多い。