見本誌回収の話

冬コミでかなり資料が集まったので,同人誌図書館関連のトピックを一つずつまとめてみる。
今回は思いっきりあてにしてるコミケ見本誌の回収に関して。
以前にkokkuriさんより

コミケではグッズ系は基本的には回収していないです。昔になると分かりませんが近年はそうだった筈。

id:myrmecoleon:20061003:1159827111 (米欄)


というコメントをもらって以来,気になっていた見本誌の回収の範囲など。

★当日頒布する全ての物を見本誌として提出してもらう。便箋,バッジなどのアイテム,グッズ類は,大量に製作された物,性表現を伴う物については同様。それ以外のアイテム,グッズ類,既に前回以前に提出した発行物は提出しなくともよい。委託頒布物も見本誌を提出する。ただし,複数のサークルで同一の物を頒布する場合,どこか一サークルが代表して提出していれば構わない。ゲーム,フロッピーなどはマニュアルを添付する。

コミケットマニュアル(コミックマーケット72 サークル参加申込書セット在中) p.7


非常に詳しい。また最新のマニュアルであるので,実質これが現行のポリシーであると考えていいんでしょう。
グッズ類も無条件で見本誌提出義務がないわけではなく,大量生産品については提出する必要があるらしい。「性表現を伴う物について」というのは,見本誌としての保管というより,問題になった場合のリスク管理の目的でしょうね。
委託同人誌は気になっていたけれど回答が得られました。誰かが一度出せばよいらしい。逆に言えば,委託であっても見本誌は提出する義務があると。


提出する範囲については,コミケットプレスにて以下の記述が確認できました。

Q8 無料配布本も販売実績に記入するのか?また,見本誌回収の対象になるのか?

A8 サークル配置用資料には記入してもいいし,しなくてもかまいません。当日の無料配布本は頒布物確認の対象にはなりますが,見本誌回収の対象にはなりません。

コミケットプレスQ&A」 - 『コミケットプレス総集編』2 p.144(初出:Vol.8 1998.08)


この時点では無料配布本は見本誌回収の対象にはならなかったらしい(後述するように,現在は冊子の無料配布本は回収対象と思われる。「マニュアル」でも「当日頒布する全ての物」とあり無料配布でも例外とはなっていない)。数年の間に変更になったのかな? 頒布物確認は性表現関係。

Q グッズは見本誌として提出するのでしょうか?自分のところはグッズを出すのを中心に活動しているので心配です。

A グッズ類は見本誌として提出して頂かなくても構いませんが,頒布物確認で拝見させてもらいます。また,好意により提出して頂いた物は見本誌として回収させて頂きます。

「Q&Aコーナー拡大版 コミケットの基礎知識」 - 『コミケットプレス総集編』2 p.40(初出: Vol.9, 1998.12)

グッズ類の提出は義務ではないが,提出された場合は見本誌として回収,保管するということか。「頒布物確認で拝見」は上記と同じ。この時点では「大量生産」という条件は見当たらないので,グッズ類は一律に提出義務なしだったと思われます。ただし,好意で提出されたグッズ類は保管されている可能性アリ。

ペーパーは見本誌として提出するのですか?

ペーパーを提出する必要はありません。基本的に頒布する(無料配布を含む)冊子状の物,CD・ビデオ等の電子メディアが提出対象です。カレンダー・カードゲームについては,イラスト集とみなし,回収しています。詳しくは巡回している館内担当のスタッフまでご相談下さい。

「COMIKET PRESS Q&A」 - コミケットプレス 24 p.15,2006.08

ここでは無料配布本(冊子状のもの)は回収対象になっている。また,CD・ビデオ等が提出対象なのが明示されている。またカレンダーやカードゲームの扱いが説明されている。


上記をまとめると,

  • 冊子状のものは有料・無料に関わらず見本誌として回収される。ただし,1998年頃は無料配布本は回収していなかったらしい。
  • カレンダーやカードゲームはイラスト集とみなして上記に準拠(最近の記述なので以前は不明)。
  • CD・ビデオ類は基本的に回収対象。添付マニュアルも。
  • グッズ類(便箋・バッジ等)は性的表現を伴うもの以外はかつては回収対象ではなかった。頒布物確認で提出したグッズの扱いは不明。また義務ではないが,サークルの好意により見本誌として保管されているグッズもある様子。現行のマニュアルではほかに,大量に生産されたグッズについても回収対象としている。

ということらしい。無料配布本やグッズ類は時期によって扱いが違うっぽい。ただし少なくとも,グッズ類の中にも見本誌倉庫で保管されているものはあるとみてよい。


委託同人誌についてはマニュアルの記述が一番詳しいが,その他に以下の言及があった。

Q4 見本誌票の「サークル名」で委託された本(コミケにスペースを取ってない)のサークル名は,委託本を作ったサークル名か,コミケで販売をするサークル名か,どちらを記入すればよいのでしょうか?

A4 コミケで販売するサークル名を記入して下さい。

コミケットプレスQ&A - 『コミケットプレス総集編』2 p.142(初出:Vol.7, 1997.12)

見本誌票記入のサークル名は販売サークルらしい(現在もそうなのかは不明)。ということは,見本誌票は委託本に関しては必ずしも書誌の基本データに使えないと。


あと委託コーナーへの委託については以下。

過去に同人誌委託コーナーで出した本を再度見本誌として提出する必要はあるのですか?
 過去のコミケットで提出した本であれば(同人誌委託コーナーに提出したものを含め)不要です。

「COMIKET PRESS Q&A」 - コミケットプレス 24 p.15,2006.08

委託コーナーに提出した分も見本誌扱いされるらしい。
……あれ,ってことは,見本誌の総数って委託コーナー分も足さなきゃいかんのか?;
うはあ。


あと,プレスでは回収された後の扱いについての質問も多く,この回答もかなり参考になります。

Q4 回収した見本誌は,コミケが終わった後はどうなるの?どこに保管してあるの?

A 見本誌は毎回ブロック毎に整理して,千葉の某所にある準備会の見本誌倉庫に保管しています。一応完全とはいいませんが第一回目の分から残してあります。いつか同人誌資料館を作るのがコミケットの一つの夢です。

サークルQ&A - 『コミケットプレス総集編』1 p.114(初出:Vol.2, 1995.08)

以前に「どうも1995年から1996年中にかけて同人誌図書館の案が出た(らしい)」と考察したけれど(id:myrmecoleon:20061005:1160059559)この回答はその裏付けとなりますね。ブロック毎整理もとっくにはじまってるらしい。完全ではないらしいですが。

Q ブロックノートは,回収後どうなっているのでしょうか?
Q 見本誌として渡したものは,その後どうなるのでしょうか?

A 回収されたブロックノートは,読まれた後に全て千葉県内某所に保存されます。見本誌は,いつのコミケットのものかという事と,ジャンルブロックごとの大まかな整理しかされていませんが,同人誌資料館を開設する目的のために大切に保管されています。

Q&Aコーナー拡大版 コミケットの基礎知識 - 『コミケットプレス総集編』2 p.38(初出:Vol.9, 1998.12)

見本誌については上と同じ。加えて,ブロックノート*1も同じく見本誌倉庫に保管されてるらしい。


また,Vol.14のプレス出張版には,見本誌倉庫の様子が6コマ漫画で描かれてました。

(関連するネームのみ抜粋)
「見本誌保管は千葉県某所でしています。」
「土地がぬかるんでるので年々ちょっとずつ埋まるプレハブ」
「年一回の見本誌整理は15人程で行います。」
「車で2時間半かけてやっと到着」

コミケットプレス出張版 - 『コミケットプレス総集編』3 p.167 (初出 : Vol.14, 2001.08)

年一回見本誌整理をしているらしい。というか,年一回しかいかないのか;
年々埋まるプレハブは非常に心配。


最後に,コミケ一回で回収される見本誌の総量について。

Q 1回のコミケで回収される見本誌の総量はどれくらいなのでしょうか?

A 前回のコミックマーケット64で回収された見本誌の総量は3日間の合計でゆうパックの大サイズでおよそ450箱,およそ10立方メートルになります。重さの合計は7トンくらいになります。

コミケットプレスQ&A 『コミケットプレス総集編』4 p.144 (初出:Vol.18, 2003.08)


ちなみに,C64に参加したサークル数は約35000ですね(id:myrmecoleon:20060906:1157552446 より)。「同人誌バカ一代―イワえもんが残したもの」によれば,岩田氏が1999年頃に引っ越したさいの同人誌の量がゆうパック250箱,冊数にして30000冊近くだったらしい。ということで一箱あたり120冊入るとして計算すると,C64の見本誌冊数は54000冊……っておい。まあでも,2001年の段階で氏がもっていた同人誌の量が4トンという話なので,その倍近い量が近年の一回あたりのコミケで回収されてると考えれば,それぐらいになってもおかしくはないか。
つねづね「サークル数×新刊1はかなり少ない見積もり」と言っていたのは,実はこれを見てたからだったのですね。35000サークル参加の回で,どう考えても5万台の同人誌が回収されてるのです。だから,サークル数×1.5倍くらいの計算の方が実数には近いような気がする。ただまあ,少なく見積もってもとんでもない数字なのでこれまでの数字を踏襲しますけれど。
(しかし,1回あたり5万冊出るとすると,年二回で年間の国会図書館が受け入れてる図書の冊数を越えそうなんだが……少なくとも,年間の商業出版物の発行タイトル数は軽くこえるよなあ)

*1:同ブロックサークル内で回覧しながら1サークル1ページずつ自由に書き込みのできるノート。しばらく前に廃止。