金のかかる雑誌の論文を読めるようにする10の方法


drillhanz - 論文を読むのにお金がかかるということ


ほいほい,元相互貸借担当で現雑誌購読担当であるところの某大学図書館職員のおれが答えますよ。
金のかかる雑誌の論文を読めるようにする方法。

大学が金を払う

雑誌購読や電子ジャーナル購読など,所属大学で費用負担をすることで読めるパターン。これが一番よくある。
ちなみに学術雑誌がどれくらい高いのかを言いますと,年間購読で10万円というのは安い部類です。外国の学術雑誌だと20万前後あたりが一番多い感触。本気で高いのだと冊子体のみで80万なんてのもあります。これに電子ジャーナルくっつけると100万なんて余裕で超えます。うちの大学は確か電子ジャーナルと学術雑誌経費と足すと1億とか超えてんじゃないだろうか。帝大クラスとかすげーんだろうなー。

読む人が金を払う


学会に入る,雑誌を買って読む,論文をPay per Viewで買う,電子ジャーナルを個人購読等々。正攻法。まあこの正攻法を易々とできる人は有料だからと文句は言わない。
ちなみに学術雑誌は大学で買うより個人で買う方が安かったりします。雑誌にもよるけど,2〜10倍くらいの価格差。Natureなんて学生が個人で買ったら36000円なのに大学で買ったら30万っすからねー。ハハハハハ。*1

書く人が金を払っておく


オープンアクセスって奴。オープンアクセスって別にフリーってわけじゃないんです。購読者に払わせるはずの金を著者に払わせてるってだけ。雑誌によってすべての論文をオープンアクセスにするタイプのと,著者が自分でオープンアクセスにするか選べるタイプのとありますが,いずれの場合も著者がなにがしかの支払いをするのが普通。海外でオープンアクセスに対応してる雑誌の場合,各種割引はあるようですが,割引なしだとだいたい円換算で30万くらい(一論文あたり)でしょうか。
上との複合で,大学がその雑誌を購読してると割引がある,なんてのもあったり。


ちなみに,別にこれは学会とかがぼってるわけじゃなくて,サーバ代やら査読やら事務やらなんやらで結局いろいろ金がかかるそうな。広告つけてスポンサーつけて,それでも赤字で投稿料を値上げしてる始末と。電子版なら安上がりだろうとかの素人考えは捨てましょう。


参考:Open Access Japan | オープンアクセスジャパン: オープンアクセスとは

国が金を払う


ドイツなんかはナショナルライセンスといって,国内の研究者すべてが大手ベンダの電子ジャーナルすべてを利用できるようにまとめて契約してたりします。
参考:E434 - ドイツのナショナルライセンス,対象が拡大される | カレントアウェアネス・ポータル

主催は一応DFGという非営利公益団体ですが,資金の大半が国費なんで結局は税金です。いくらかかってるんだか。まあ個別に契約するより安いっていうならこれもありっすね。


あとアメリカのNIHなんかだと,研究費助成を受けた論文は必ずオープンアクセスにするように,みたいなお達しをしてますね。要するに,国で金を払ったからにはそれは国民全てが見られるようにすべきだ,って思想。いろいろごたごたしてますが,その姿勢は素晴らしい。日本も見習ってください。
あとPubmedCentral最高。あちこちの雑誌を創刊号から収録してくれてるおかげで安心して雑誌のバックナンバーが捨てられる(マテ


以上が正攻法。まあ要するに,誰かが金を払ってます。まあ商売でも商売でなくても,なんだかんだで金はかかるのでどこかで負担せにゃならんのです。
次に,やや裏技。裏技っても普通によくやりますけどね。

余所の大学で読む/コピーを取り寄せる


近くの大学もってるところがあれば,直接そこの図書館に行って読める。最近は学外公開してる図書館がほとんどだし,それでなくてもどこかの大学の学生なら悪い顔はされない……はず。必要に応じてコピーも可。
すぐに行ける範囲にそういう大学がない場合は,所属の図書館(学生等でない場合は公共図書館でも可)を通して論文のコピーを依頼する。国内に所蔵のある雑誌で,最新号でさえなければ,まあたいがいな入手可能。あと国会図書館にある雑誌なら,直接依頼しても入手できます。
コピーなんで実費かかっちゃいますが,だいたい見開き一枚あたり40円くらいですね。


裏技というのはちょっと心苦しいですが(つーかうちでやってる業務ですし),まあ出版社にとっては裏技。あとさすがに時間はかかります。スムーズにいけば二三日ですね。
国内に所蔵のない場合は海外に頼むって手もありますが,これは普通にPay per Viewとかするより金がかかりますので注意。他に代替のない場合限定。


これの応用で,利用したい雑誌の電子ジャーナルを契約してる大学の図書館にいって,公開されてる利用者端末等で論文を見るって手もあります。この手の利用はたいがいのとこで別に禁止されてないのでどんどんやって可。難点は,ほとんどの図書館でプリンタは用意してないこと。プリントアウトしたいときはお奨めできない。あと,PDFをUSBメモリに保存したりメールで転送したりすれば自宅でプリントアウトできるじゃんとかわたしは言いません。はい,言ってません。

知り合いの研究者にメールで送ってもらう


とある教授の先生が真面目にこれを言ってました。読みたい論文は知り合いにいえばすぐ手にはいるから,別に電子ジャーナルの契約とかいらないよ,雑誌買うのにウン百万とか何言ってんの,とか。それ別にいらないわけじゃなくてその知り合いの研究者のとこが契約してるだけじゃん,とは思っても口には出さない。
研究歴ウン十年とかコネのたっぷりある人にはお勧め。ある人には,ね。ちなみに言っておくと,電子ジャーナルをダウンロードしたのをメールで他人に転送するのは規約違反だった記憶。裏技っつーか立派に黒いけど普通にやられてるんだろうなー。

学会にメール等で聞いてみる


国内雑誌限定*2。学会にもよるんでしょうが,非常にマイナーな雑誌の場合,学会にメールしたら「コピー送ります。実費でいいですよ」みたいな感じですぐに論文送ってくれる場合もあったり。1号まるまる寄贈してくれた場合もありましたっけ。まあこっちが図書館だからというのもあるんでしょうけれど,小さい学会だとわりとそのへんの対応はよいです。

論文の著者にメール等で聞いてみる


正攻法の中の正攻法。最終兵器。
昔は一声かければリプリントを送ってもらえたので,その延長ですな。
研究者の人って一般に気前がいいのでどうにかなったりするそうです。

著者のホームページ等で公開する


わざわざメールで送るくらいなら先に公開してしまえ,と普通に公開されてる論文もたまにあります。セルフ・アーカイビングっての奴。
今日たまたま見た白田先生とかが論文やら発表原稿やらを公開してるのも広い意味でのこれ。海外でもあまり広まってはいないものの,どうしても入手できない論文をググってみたら著者が公開してた,という経験を過去3度ほどしたことがあります。


なお,セルフ・アーカイビングを許す雑誌と許さない雑誌というのもあり,場合によっては著者が載せたくても載せられない場合もあります。

著者の所属団体で公開する


上のと似たようなので機関リポジトリというのがあり,これは著者個人がセルフ・アーカイビングする代わりに,所属している機関(大学)で論文のアーカイブを公開しますよ,って奴。
昨年から今年にかけて日本でも大量の機関リポジトリがタケノコのように生えてきました。まともに稼働してるところがどれくらいあるかは知りませんが,けっこうな数の論文は無料で読めるようになってるはずです。たぶん。まあ例によって公開拒否の出版社のは不可ですが。
こっちは最近になって機関リポジトリの横断検索とかが整備されてきたのでわりと探しやすい。OpenDOARとかJuNii+とか。Google Scholarでもいけます。ただし,まだそんなに多くはないので,どうしても入手できないときに試しに,って感じ。



と,だいたいこんな感じ。


ただまあ一言いっておくと,これでも日進月歩で毎年条件は改善されてます。
国内だとCiNiiやJournal@chiveの公開,全国の大学の機関リポジトリ続出,メディカルオンラインなどの国内雑誌の有料電子ジャーナルの登場。海外ではPubmedCentralがあちこちの学術雑誌を創刊号から電子化してくれてるわ,Nature Publishing Groupが学会誌だけですがバックナンバーを公開しだしたわ。論文検索についてもCiNiiの検索が契約者以外でも可能になったし*3Google Scholarがけっこう使えるものになってきてますし。おまけにいうと,学術雑誌の高騰もやや収まってきたようです*4


薔薇色の未来,とは言いませんが,昔の状況から考えるとはるかにマシでしょう。そもそも電子ジャーナル以前はこんなに選択肢はなかったわけで,10年前くらいの研究者の方とかから見れば天国なんでしょうね。その分研究の速度も早くなっちゃってますが。

*1:まあその分たくさんの人が使えるので,安いっちゃ安いです

*2:いや,英語できれば海外でもいいですが

*3:この前のアンケート以前は登録しないと検索すらダメでした。フリーで使える雑誌も増えましたね

*4:値上がりは続いてるものの,上がり方が衰えてる