早い図書館とくつろぐ図書館


【レポート】Google Japan村上社長が語る「Googleが行いたいこと」 (1) Yahoo!は目次、Googleは索引 (MYCOMジャーナル)

Googleと対比するのに、おなじサーチエンジンでもよりポータル的な位置づけであるYahoo!をとりあげ、「Yahoo!はデパートのようなビジネスモデル。そこに来ればすべてが足りるように構築されていて、滞留時間を最大にしたい」と村上氏は説明する。

いっぽうで、「GoogleGoogleのページに立ち止まらずに、立ち去ってほしい。Googleは滞留時間を最小にしてほしいというビジネスモデルをとっている」という。

Yahoo!はインターネットの目次的な位置づけにあり、Googleは索引的な位置づけになるとし、その違いはビジネスモデルの違いにもつながるとつづける。


Googleのこういうポリシーを聞くと,ほんとに彼らはランガナタンの第四原則「読者の時間を節約せよ(Save the time of the reader.)」を地でいってるなあと感心する。要するに,利用者がそこを見てまわる滞在型のサービスではなく,さっさと各人の目的を達成して出て行ってくれる素早いサービスを目指してると。


で,ぽやっと浮かんだのが「そういえば,図書館はどちらになるべきなんだろう。」という疑問。利用者がそこに長時間留まるようなサービスになるべきか,それとも素早く利用者の用事を解決してお暇願うサービスになるべきか。滞在型と一時立寄り型とでもいおうか。


よくよく考えてみると,貸出至上主義にしろ,レファレンス重視にしろ,どちらかというと後者のアプローチなのですよね。貸出は本を持ち出すことなので,どちらかといえば滞在時間カット。レファレンスは微妙だけれど,利用者がだらだら図書館をさ迷っている時間をカットすると考えれば,Googleと同じく一時立寄り型。
最近進んでいるWeb上のサービスだったり電子ジャーナルだったりリンクリゾル*1だったりもスピード型。なんせ,図書館に立ち寄ることすらしない。
上記したランガナタンにあるように,図書館というシステムは総じて,利用者の要求にあった資料を(利用者の経済状況などに左右されずに)どれだけ短時間に提供することができるか,という点に特化して構築されている部分がある。つまり,スピード命。
この点から見れば,図書館はやはり,一時立寄り型のスピードサービスを目指すのが妥当,と見えなくもない。


しかしながら,利用者ニーズを考えると,実は滞在型のサービス強化を求めている例が多い。


そもそも一般的な図書館の利用のひとつとして「受験勉強に使える」「昼寝ができる」「冷暖房がきいててすごしやすい」みたいな“タダで便利に使える空間”というのがある。このイメージは図書館側としては以前から何度も脱却しようとしてきた(中小レポートらの貸出重視もそもそもここから始まる)ものだが,現在でも一般に広くそう理解され,「図書館といえば受験勉強のときに通ったっけ」みたいな人はけっこう多い気がする。
飲食自由も多いニーズの一つ。図書館で飲んだり食べたりがしたいということは,ちょっと立ち寄って解決して帰る,という一時立寄り型のサービスでは当然考えられず,もちろん上記のような学習室的な利用を背景にしたニーズといえる。
こうしたニーズは,特に大学や中高などの教育機関の付属図書館では特に大きい。結局,ほかに学習するためのスペースはないし,また教職員なども同様に図書館を学習室としてとらえているため,図書館そのものにそうした期待がそそがれる。結果,どれだけの閲覧席があるかということが図書館の評価となる。実際問題,当館の閲覧席は一部空いてる時期を除いて毎日満席になる(まあ,狭いから座席少ないんすよorz)。まあこのへんは図書館としても受け入れている部分ではあるが,上記したような図書館のポリシーからすると少し気分の悪いところもあったり。
インターネット端末の設置なども長時間使用の傾向があるし,開館時間の延長の要望も滞在型ニーズの流れから来る場合が多い*2


以前にalbinoalbinism - 図書館を民営化するとマンガ喫茶になる(かもwwwwww)という記事をみたけれど,こうした滞在型ニーズに特化した有料図書館を考えれば,必然的に漫画喫茶になる。そして実際,こちら側のニーズの方が利用者には多いように思える。


ちなみに,図書館側にも滞在型ニーズを肯定するような言及や試みは多い。
コミュニティ型だとか場としての図書館だとかいう発想は昨今しばしば聞かれる。利用者-資料の関係にとどめず図書館内での利用者-利用者の関係を構築していくようなサービスであるとか,地域の研究会なんかに場所と資料を貸すといったレベルからいろいろある。もっと単純に図書館中心でSNS立ち上げてしまったらいいんじゃないか,とか思ったけどとりあえず実例は知らないor思い出せない。海外だと極端な例でオーストラリアの図書館が本好きのための合コンをであるとか,以前にも紹介した図書館でアニメコンベンションを開いたとかある。日本でももうちょいおとなしいのはけっこうありますね。音楽会とかはかなりあるけれど,個人的に気に入ったのは夜の図書館で怪談と肝試しでしょうか。


また,純粋に学習室としての図書館のあり方を最適化していった事例としては,インフォメーション・コモンズからラーニング・コモンズへ:大学図書館におけるネット世代の学習支援で紹介されているラーニング・コモンズ等があげられる。一例をあげると,

 マサチューセッツ大学アマースト(Amherst)校のデュボア(Du Bois)図書館は,2005年に改修を行いメインフロアにラーニング・コモンズを設置した。さまざまな大きさのテーブルに対して250の座席を配置し, 164台のPCを設置している。1台のPCに1〜3席のテーブル(これを「スタディ・ポッド」という)を59組,1台のPCに6席のスタディ・ポッドを6 組配置している。また,6席のスタディ・ポッドを個室化したグループ学習室を13室設置している。

 ラーニング・コモンズには,技術支援デスク,レファレンス・研究支援デスクなどのサービスポイントが設置されているほか,学内の他組織との連携により,学習上・就職上の指導・アドバイスを行うコーナーやライティング指導コーナーも併設し,多岐にわたる学生の学習支援活動を行っている。

 飲食に便利なよう,同じフロアにはカフェがある。飲食に関する制約は緩和されており,密閉できる飲食物であれば,館内に持ち込むことができる。また,ラーニング・コモンズは,静粛な学習エリアではないと利用規則に断っている。


大量の閲覧席に大量の端末。おしゃべり自由,むしろ奨励。飲食も自由でカフェもある。各種支援スタッフを配置しており,ソフトウェアやデータベースの詳しい使い方であったり,資料の探し方であったりをいつでも訊くことができる。ほかの大学の例では,デジカメを借りられたり,大画面ディスプレイを使えたりと学習を助けるためのサービスがあれこれ。
学生の学習能力を最適化するための学習環境,という方向性でいけば,こうした滞在型ニーズの高度化,といった方向に向かうのも一つの方向性ですね。


と以上のように,図書館のサービスは滞在型方向と一時立寄り型方向の双方ともに発展してるのですよね。
まあ,わざわざ特化しないでもいいんだろうけれど*3,自分の図書館がどちらを重視しているか,というのはある程度明示的に認識しておいた方がいいのかもしれない。
たとえば,その館で入退館の管理をしているとして,ある人物が短時間滞在して本を一冊だけ借りて帰ったとする。このとき,「閲覧室が過ごしにくいのかな?」と考えるべきか,それとも「欲しい本がすぐ見つかってよかったね」と考えるべきか(滞在時間や貸出状況だけだとどっちも言えてしまうんですよね)。
まあこれは図書館がどう考えるかというより,利用者のニーズをどれだけ把握してるか,って話なんだけど。どちらを重視すべきか,ってのも本当は図書館員が決めることではなく,利用実態を把握して調整していくことなわけで。ただ,図書館そのものはどちらに向いているべきなのか,みたいな点まで含めて,自分なりの考えをもっておくことは大切なのかも。


しかしあれだな,もしかして滞在型に特化した超高機能漫画喫茶(PCはもちろん,大画面ディスプレイ・デジカメ・スキャナ・プリンタ等完備。ビジネス用途のための個室も各種取り揃え)と一時立寄り型に特化したオンラインレファレンスサービス(メールやIMで問い合わせると数分で古今東西の本・雑誌の関連の引用を示した上で質問への簡単な回答をくれる)に完全に分化して,いわゆる図書館って無くなってしまうのかもしれんなー。そして実際,その方が効率がよいような気もしないではない。
その方面でいえば,自分はやっぱり一時立寄り型を重視したいかも。ランガナタンらぶだし。

*1:いろんなところから来た文献へのアクセスを自動的に適切なサービスにリダイレクトするプログラム。主に大学図書館で流行中。

*2:少なくとも大学図書館では。公共図書館とかだと,ビジネスマンが仕事帰りに寄りたいから,みたいなニーズも多いのかも

*3:双方があることで有効な場合もあるわけで。滞在型利用の中からレファレンスや貸出の需要が生まれるケースも多いわけだし。