愚仮面 - アンパンマンができるまで その1〜4
http://d.hatena.ne.jp/derorinman/20070131/1170259999
http://d.hatena.ne.jp/derorinman/20070201/1170344324
http://d.hatena.ne.jp/derorinman/20070202/1170437801
http://d.hatena.ne.jp/derorinman/20070203/1170524572
かっけーよやなせ先生。。。
アンパンマンのテーマの歌詞は自分も大好きで「これこそ“日本的ヒーロー”じゃね?」とか思ってたりもしたんだけど,まさかマジモンでそういうメッセージを込めてたとは信じ切れてなかった。
脱帽。
で,ネットを漁ってたら,大昔に例の歌詞について自分なりに考察した文章が見つかったので再掲してみる。*1
「愛と勇気だけが友達」問題。私も疑問に思ったことがあります。
でもついさっき、アンパンマンマーチの歌詞を見直したところ、納得がいきました。
なんのために生まれて、なにをして生きるのか。
こたえられないなんて、そんなのはいやだ!なにが君のしあわせ、なにをしてよろこぶ。
わからないままおわる。そんなのはいやだ!
この部分、いつもはアンパンマンから視聴者への問題提起ぐらいにとらえてましたが、
よく考えてみると、この歌中で「君」というのはアンパンマン自身のこと(「やさしい君は」)
そう考えてこの詩を読んでいくと、
生まれた理由も、どう生きていけばいいのかも分からない。
自分にとっての幸せ、喜びがなんなのかも知らない。
それでも、必ず何かはあると信じて、
自分の幸せは見えなくても、誰かの夢を守ろうと。
戦うことで心が痛んでも、くじけずに。
ただ、みんなのためにという博愛心と、
悪に恐れず立ち向かう、勇気だけを友として、
ひたすら孤独に戦いつづける…
という、今までの認識と離れまくった、やたらかっこいいロンリーヒーローのイメージが浮き上がってくるではないですか!そうです。「愛と勇気だけが友達」問題にややこしい曲解は必要ないのです。
一見ジャムおじさんやカバオくん、カレーパンマンといった連中と親交を交わしているかのようなアンパンマンですが、
彼はいまだに自分の存在に悩み、苦しみ、戦う矛盾を抱え、
心を開いてはいないのです。曲中に示されている「生きる喜び」を彼が知っていることだけが、唯一の救いなのでしょう。
しかし、あのほのぼのドラマにこれほどまでの影があったとは驚きですね。
ややヒロイズムに酔って曲解してる節はあるけれど,意外にそれほどはずれてなかったかも。
アンパンマンは実際,仮面ライダーやウルトラマン,戦隊ヒーローと並ぶ日本の代表的ヒーロー像のひとつだと思うのですね。ヒーローがヒーローとなった原因の設定を分析的に見ると,以下のように整理できるな,とかを以前考えてました。
先天性ヒーロー | 後天性ヒーロー | |
自分の意志 | 宇宙人(スーパーマン,ウルトラマン) 超能力者(Xメンとか) |
職業ヒーロー(宇宙刑事) 復讐ヒーロー(バットマン) |
他人の意志 | ロボット(アトム,キカイダー) | 悪の組織等に改造(仮面ライダー,ロボコップ) |
偶然 | (該当なし?) | 事故で変身(スパイダーマン) |
説明すると,「先天性」ってのは生まれたときからヒーローとしての能力をもっていた(もしくは内在していた)タイプ。「後天性」ってのはその後にヒーローとしての能力を何らかの形で獲得したタイプ。
「自分の意志」っていうのは,普通に生まれて生まれながらにしてその能力をもってたの*2と,自分からその能力を入手した者。「他人の意志」ってのは(悪意か善意かは別として)誰かの意志でその力を得た者。「偶然」というのは上記するような誰かの意志を介在せずにその能力を手に入れた者。
ヒーローものを考える場合,その能力が生まれつきか,それとも何かによって得たものか。また,それが自分の意志で手に入れたものか,それとも誰かによって押しつけられたものか,あるいは偶然手にしてしまったものか。こういうところがそれぞれの葛藤の原因になっていることが多く,原因が違うと違うなりの葛藤が起こってドラマが盛り上がるんですよね。
(たとえば先天性のタイプは,自分が地球人じゃない(人間じゃない),あたりからの葛藤。後天性は,自分はもう過去の自分じゃない,って感じ。他人の意志で作られたのは,それへの怨みだったり,自分の肉体の汚さだったり。偶然だと神を呪ったり)
実際は,仮面ライダーにも自分から改造を希望した奴とか自分で改造した奴とかもいる(V3とかライダーマンとか)し,偶然ベルトを手にしただけの奴もいる(クウガとか)し。戦隊ヒーローなんかはさらに色々ですね(だから表にのせてない)。宇宙人もいれば,変な光線浴びただけの奴もいるし,そういう職業なだけの人たちもいる(現行のボウケンジャーはこれ)。
ただ,こういうふうに分析してみると面白いかナー,と昔考えてて,そうするとアンパンマンの特殊性が際だつな,とか以前に思った。
アンパンマンは実は,上記の表では(該当なし)かと思っていた「先天的でかつ,偶発的に発生したヒーロー」なんですよね。パン屋のおやじは普通に美味しいパンを焼こうとしていただけで,「正義の味方」を作ろうなんてみじんも思ってなかった。別にアンパンマンが生まれた背景に誰かの意志が介在していたわけでもない。また彼がそうして生まれようとしたわけじゃないし,少なくとも正常な生まれ方ではない。
また,アンパンマンは明らかに「先天的な」ヒーローです。あの力は生まれつき備わってますから。この点,“過去”をもつことで葛藤する仮面ライダーやスパイダーマンとは一線をひく。彼には過去誰かと愛し合った思い出とかそういうのは皆無です。なんせ元は小麦粉ですから。
また,スーパーマンのように,普通の生まれ方をしたが,過去の不幸のせいで生まれた場所とは違う場所で生きなければならなくなった,といった葛藤もありません。なんせ最初から彼の家はパン屋です。
一番近いタイプとしては「誰かに作られた」という背景をもつロボットヒーローでしょうか。彼らは人間と交じりながらも自分は人間じゃないという葛藤をもち,また自分が作られた理由を知って絶望したりなんだりしてましたね。でもアンパンマンは違う。偶然出来ちゃっただけなんです。
(自分は人間じゃないっていう葛藤は本来ならあるはずなんですが,あの世界は変なのばっかですからね; 人間と人間じゃないものの違いって概念はあるのかあそこ。でも「愛と勇気だけが友達」と言ってるくらいだから,深いところではその葛藤もあると妄想。)
こう考えると,アンパンマンの物語に仮面ライダーだったりスーパーマンだったりにあるような葛藤がないのは当たり前なんですよね。あれパンですから。ほかのヒーロー物にあるような深みがないのは当たり前。本質的に別の背景をもったヒーローなんです。
そういう新規性をふまえてみてみると,やなせ氏の詩は見事にその根本を貫いてる,ということがわかる。彼は「生まれた理由を知らない」んです。とことんまでに。
「生まれた理由を知らない」し,当然パンだから,恋愛だのの人としての喜びも知らない*3。彼には生きる理由が与えられていない。それでも,彼は正義の味方として,困っている人を助け,飢えている人に顔を差し出す,と。
復讐心だの義務感だのの歪みのない,徹底した「正義感」を考えれば,もしかしたら彼のようなかたちになるのかもしれない。
まあそういうことを考えて「アンパンマン萌えっ!」とか思ってたんですが,どうも愚仮面さんの記事を読むと,こっちの妄想でなくて,案外似たようなことをやなせさんも考えてたみたいに思えてきますね(いや,ヒーロー分析はしてないだろうけど)。ほんと釈迦のてのひらだなあ。
しかし,やなせさんの自伝,本当に読みたいな。どっかの図書館でもってるだろうか。もってたんで借りてきました! びば図書館!