同人誌と図書館 著作権に関するメモ2 公表権


以上のように,映画の著作物を除けば,狭義の著作権の範囲で“同人誌の著者が”同人誌の寄贈を禁止することは困難である。
ただし,広義の著作権著作者人格権の範疇ではありうる。「公表権」の問題である。

(公表権)
第十八条  著作者は、その著作物でまだ公表されていないもの(その同意を得ないで公表された著作物を含む。以下この条において同じ。)を公衆に提供し、又は提示する権利を有する。当該著作物を原著作物とする二次的著作物についても、同様とする。

著作者は公表されていない著作物を公表する権利を専有している。図書館などへの寄贈は,情報公開などのからみもあり,明確に「公表」と見なされている。もしある同人誌がまだ公表されていないものである場合,著作者にはこれを禁止する権利がある。
ではどんな場合に公表されているとみなすのか。

2  著作者は、次の各号に掲げる場合には、当該各号に掲げる行為について同意したものと推定する。
一  その著作物でまだ公表されていないものの著作権を譲渡した場合 当該著作物をその著作権の行使により公衆に提供し、又は提示すること。
二  その美術の著作物又は写真の著作物でまだ公表されていないものの原作品を譲渡した場合 これらの著作物をその原作品による展示の方法で公衆に提示すること。
三  第二十九条の規定によりその映画の著作物の著作権が映画製作者に帰属した場合 当該著作物をその著作権の行使により公衆に提供し、又は提示すること。

「当該著作物をその著作権の行使により公衆に提供し、又は提示すること」。これはつまり,著作物を「公衆」に対して販売(譲渡)したりネットで公開(公衆送信)するような行為をさす。
見本誌として集められた同人誌は原則として,コミックマーケットで実際に販売されたものである。*1同人誌が公表されたものかの要点は,これらを「公衆」とみなすかどうか。
自分の感覚では,あれは完全に不特定多数が購入できる状態におかれているのだから,「公表されている」とみなして問題はないと思われますが,過去の,数十サークルしか出ず数百人しか参加してない時代のものなどについては微妙かもなー,とも思ったり。このあたりは法解釈上の専門的な話になりそう。


ただし,「公表されていない」同人誌も十分ありうるので,これらについては当然著作者の許諾なしには寄贈も展示もできません。たとえば奈須きのこの「魔法使いの夜」あたりは数冊しか作られず,関係者数人にしか公開してないという非常にレアものなので,これを勝手に公表するのは明白に違法です。*2


以上のとおり,少なくともコミケでちゃんと売られていた同人誌に関しては,一部を除き,図書館等に寄贈することについて“その同人誌の作者”が著作権上で訴えることはできません。映画の著作物以外は,サークルがなんと言っても問題ない。*3


もちろん,心情的な部分は当然あると思うので,各サークルの意向を無視したかたちで行われるのはやはり問題があると思います。しかし,必ず各サークルの許諾をとらないといけない,という性格のものではないことを理解した方がよいでしょう。


またわざわざ“同人誌の作者”と明記したとおり,オリジナル以外のものについてはややこしい点があって,たぶん正式には無許諾なアニパロ同人誌の譲渡自体がNG。原著作者が禁止かけることが可能なはず。現実はおそらくは善意者の譲渡権の特例(百十三条二項)でどうにかしてると思うので,そのへんでいけるかなー,とも思うのだけど……。このあたりはつつくと蛇が出そうだな; とりあえず後日。

*1:ただし,販売中止になったものなど,例外はあると思われる。

*2:まあそもそも見本誌倉庫にもないと思いますけどね,アレは。半月版とか100円時代のひぐらしとかは実際に売ってるので多分ある。まほよに関しては自分も読みたいので,リライト版でもいいから出して欲しいなあ。

*3:契約上の問題とかはあるかもな,って気がする。だから申込書にどういうふうに書かれてるかってのが,気になるのですね