同人誌と図書館 著作権に関するメモ3 いくつかの訂正


いいかげん書かないと忘れてしまうので覚え書き。
著作権については以前からいろいろ興味をもって調べてはいたのだけど,別に法学部は出てないし資格も持ってないしで一回ちゃんと勉強しようかなー,と思っていたところ,ちょうど仕事関係で放送大学を受講しなきゃいけないことになり,ちょうどそこで作花&吉田先生の著作権の講義があったので受けてました。*1基本的なところは一通り把握してたのでさほど苦労はなかったのですが,いくつか知らなかった点,誤認してた点が確認できたので,なかなか有益でありました。


それで,一応真面目に一通り聞いてたところ,「あ,これは同人誌図書館関係でも使えるな」というのや,以前の記事で間違ったことを書いてた部分がありました。今回はそのへんをちょっと書いておこうかなと。

頒布権の消尽


誤認その一。

なお,上記は「映画の著作物」を除いた見本誌に限った話である。実際のところ「見本誌」というのはコミケでサークルが販売するすべての商品について提出する必要があるため,自主制作映画やMADなどの「映画の著作物」も含まれる。特殊な例ではムービーを含むゲーム類が映画の著作物と認められたケースがある。フラッシュアニメなんかも多分ここに含まれる。


これらについては別に頒布権というのが存在している。

(頒布権)

第二十六条  著作者は、その映画の著作物をその複製物により頒布する権利を専有する。

2  著作者は、映画の著作物において複製されているその著作物を当該映画の著作物の複製物により頒布する権利を専有する。

映画の著作物については,その複製物の受け渡しは,譲渡でなく頒布と称される。著作者はこの権利を専有するが,譲渡権のようには消尽しない。このため,映画の著作物である同人誌(変な言葉だが;)については,寄贈には著作者の承諾が必要となる

もっとも,これに該当するものを出しているサークルは一部なので,とりあえず保留ということでもあまり問題はないかも。

同人誌と図書館 著作権に関するメモ1 譲渡権・頒布権 - Myrmecoleon in Paradoxical Library. はてな新館


映画の著作物に該当する同人誌は頒布権をもち,これは譲渡権のようには消尽しないので,再譲渡のさいに著作権者に権利がある,という説明。
ダウトでしたorz


確かに現行の著作権法を読むだけだとこういうふうにも読めるのですが,そういうことではなくて,たまたま法文に明記していないだけで,頒布権も立派に消尽するらしい。映画配給の慣例上,映画の配給に関わる部分に関しては頒布権は消尽しない(と解釈される)だけで,それ以外の,たとえばコミケであるような自主製作ビデオの販売なんかについては,立派に権利は消尽した物と見なせるっぽい。


上記の根拠は,平成14年4月25日の最高裁判例。ちょうど記事でも触れていた「ムービーを含むゲーム類が映画の著作物と認められたケース」でした。ちゃんと判例読まないとだめですねー。
長いのでポイントを抜き書きすると,

同法26条の規定*2の解釈として,上記配給制度という取引実態のある映画の著作物又はその複製物については,これらの著作物等を公衆に提示することを目的として譲渡し,又は貸与する権利(同法26条,2条1項19号後段)が消尽しないと解されていたが,同法26条は,映画の著作物についての頒布権が消尽するか否かについて,何らの定めもしていない以上,消尽の有無は,専ら解釈にゆだねられていると解される。


頒布権の規定そのものでは権利の非消尽は規定されておらず,消尽するかどうかはあくまで解釈上の問題であるということ。

 なお,平成11年法律第77号による改正後の著作権法26条の2第1項により,映画の著作物を除く著作物につき譲渡権が認められ,同条2項により,いったん適法に譲渡された場合における譲渡権の消尽が規定されたが,映画の著作物についての頒布権には譲渡する権利が含まれることから,譲渡権を規定する同条1項は映画の著作物に適用されないこととされ,同条2項において,上記のような消尽の原則を確認的に規定したものであって,同条1,2項の反対解釈に立って本件各ゲームソフトのような映画の著作物の複製物について譲渡する権利の消尽が否定されると解するのは相当でない。


譲渡権は消尽し,頒布権にはその規定が書いてないからといって,頒布権も消尽しないとは見なせない,ということ。


本文ではこれに加え,特許法上でも適法に譲渡された生産物においては権利が消尽するとみなされていること,ゲームソフトの中古販売においては映画配給のような流通上の必要性はないということがあげられています。長いので引用しませんが。


要するに,映画のフィルムなんかの再譲渡が認められていないのは,あくまで「解釈上」であって,法律本来の規定ではないよと。で,この映画配給についてこの解釈が認められているのはあくまで流通上必要であるからで,流通にこの規定が不要なゲームソフトなりビデオソフトなりにこの解釈の適用するのはやばいよ,と最高裁は判決を下したわけですね。
この判例から考えれば,同人ソフト(ビデオやフラッシュアニメも含む)を映画の著作物とみなすのはよいとしても,その頒布権が消尽しないと解釈するのは困難といえます。というか,同人側にとっても本意でない場合が多いでしょう。正当に譲渡(売買)された同人ソフトであれば,当然再譲渡も(作者側の権利上は)問題ない,とするのが妥当でしょうね。


ということで,上記の部分は修正しておきますね。失礼しました。


そういえば,このからみで以前,図書館での本の付録CD-ROMなどの貸出については「頒布権が関係するから映画の著作物がないか確認して」と書いてある文章を読んだ記憶があるんですが,この判例を前提とすれば図書館で購入した時点で頒布権が消尽したと見なせる可能性があるので,別に気にせず貸し出して良さそうな気がしますね。*3
自分も信じ込んでほかの人に嘘教えてた気がする。反省反省。


次。

二次的著作物に対する原著作者の公表権


誤認その二。
同人誌のような二次的著作物に対して,原作者がその公表に対して公表権を行使できるのか,について。

「同人誌=無許諾な二次的著作物」の場合は,販売された同人誌の作者は公表権(財産権なら複製権)の侵害でしょっぴけるし,販売されても譲渡権は消尽してない(不正な譲渡にあたる)から再譲渡は不可か。このため,まず同人誌古書店は成立しない。ヤフオク等での転売も不可。

同人誌図書館の法的問題:二次的著作物の権利 - Myrmecoleon in Paradoxical Library. はてな新館


太字のように書いてますが,吉田大輔先生によれば,

原作が既に公表されたものである場合には,もはや原作者の人格的利益を保護する理由はないから,二次的著作物の公表について原作者が公表権を行使することはできない。

著作権法概論 (放送大学教材)』p.59-60


ということらしい。言い換えれば,公表権も作品につき一回限りですよ,消尽しますよ,って話でしょうか。これをふまえれば,すでに一般に販売されてる漫画やアニメのパロディを描いて公表したところで,原作者の公表権は侵害してない,ってことになるっぽい。
とすると,著作権を出版社等に譲渡した原著作者が無許諾の二次創作に対して訴えられるのは,あくまで同一性保持権や名誉侵害に限るわけですね。


なお,あくまで「既に公表した」であるので,未公表ネタの二次創作はやばいはず。以前にあげたネタでは,ほとんど読者がいないらしい「魔法使いの夜」を偶然手に入れた誰かが,きのこ氏に無断で同人誌を作って売ったら公表権侵害かも。もっとも,キャラとか基本設定とかはすでにマテリアル等で公開されてますし,まほよ自体未公表と言い切れるのかも知りませんが。あくまで例として。

*1:つーか,もう試験まで終わってますが。

*2:頒布権のこと。

*3:よく見たら,このことは手元の『Q&Aで学ぶ図書館の著作権基礎知識 (ユニ知的所有権ブックス)』でも書いてありました。(p.131) あくまで最近はこういう解釈もある,という紹介ですが。